アルハンブラの思い出
引っ越しも無事終わったが、
じぶんの家が駅の何口から出たら一番近いのかも
よくわからぬまま改札を出る。
すると、音楽が聞こえてきました。
異国情緒溢れているし、生で聴いたことも無いのに、
なつかしい、という不思議な楽器の音。
そう、マンドリンです。
小学校の教科書に載っていた「ひぐれのお客」
(山中さん、だか中山さん、営む布地屋さんに、
閉店間際に猫が買い物にくるお話)
や、中山みぽりん主演の
「ラブ・ストーリー」
(スランプに陥っている売れっ子小説家との恋のお話)
に、登場するせいでしょう。見知っている気がするのは。
弾き手は、西洋人のおじさまでした。
土曜の夜の静けさや期待感を壊すことなく、
いくぶん昼間より涼しくなった風に溶けるように、流れています。
たぶん会社に行ってたんじゃないかしら、
と、思われる出で立ちの若い女が
ぴったり傍について聞いています。
海坊主は立ち止まって聞く気がなかったので
ちょっとだけ速度をゆるめて家へ向かいながら、届いてくる限り耳を澄ます、
というセコいことをしました。
終