うみつづき、陸つづき -押海裕美ブログ-

思いついたことが、消えないように絵や文にしました。

2009-01-01から1年間の記事一覧

年賀はがきの絵

目の前の少女が必死でまぶたの裏から黒眼を探しているのを漠然と眺めながら、人魚はもうずっと前のこと、生きてきた中でいちばん大好きだったアーティストのライブに行った日のことを、なぜか思い出していた。 ものすごく忙しい時期だった。そのうえ私は計画…

アイロニカルバタフライ

一秒が永遠のように感じられた、永遠のような長い口づけ・・・ 小説で読んだ永遠に関する比喩は思い浮かぶのだが、その単語を説明する方法がわからない。太平洋を横断すること?・・いやそれは遠泳だわ。 余程、目を白黒させていたのだろう。 私の顔をじっと…

シネマ・オブ・ラブ

「おみそれしやしたぜダンナ、このとおり水タバコとこの身以外はなぁんにも持ってちゃいねえケチな商人ですが、あっしにできることならなんだっていたしやす。なんでもおいいつけくんなせえ。」 人魚はいつの間にか長い髪をちょんまげに結い上げており、私の…

ウイスキーの海

突然、空気が変わった。 潮の匂が消えたのだ。かわりに、小さい頃に突然胸を締め付けたわけのわからない不安や、山で飯ごう炊さんをしていて食べ終わった頃に気がついたら辺りがすっかり夕闇に包まれていた時の切なさのような気配が、鼻といわず耳といわず、…

Candy

返事がない。 ことりと物音もしない。 すーいませーん!ほとんど叫ぶように張り上げながら扉を叩くと、後方からだみ声がした。 「あんたー!何時だと思ってんのよ!」 驚いてふり向くと道路を挟んで向かいの家の窓から、変なヘアバンドでおでこを全壊にした…

星降る夜の約束

私が人魚をさがす旅に出たのは、そういったいきさつからであった。 しかし、一体どこを探せばよいのか。そもそも実在するかも定かではないものなのだから、雲をつかむとはこのことだろう。絶対ないよな、と思いつつ念のため魚屋をめぐったものの、珍しいジュ…

氷イチゴ

自分の天職が「おめかけさん」なのではないかと思い始めたのは、十歳になってまもなくのことだった。職というか、生き方というべきか。 将来の夢をきかれたとき「およめさん」と回答する人の気持ちがつゆほども理解できなかったのは予兆であった。 どんなに…

珈琲中毒

昔々そのまた昔、某国の政治家・王眠々は、毎日次々に降りかかってくる仕事をどうにかして完璧にこなしたい、しかし麻雀はやめられない、とさんざん首を捻ったあげく、眠らないことを思いついた。 今まで睡眠に費やしていた時間を他に当てれば、なんと有意義…

カスク

琥珀色、と表現するのだろうか。透明な金色の水が、グラスの中で美しく揺らいでいる。 光に透かして見とれていると、それはみるみるうちにあふれ出して、世界中の全てのものに姿を変えた。 ~ウイスキー奇談~ ♪茶色の小瓶を二人でゆすりゃ 紅茶に牛乳なんで…

少女

いよいよ、待ちに待った日曜日がやってきた。 クラスのみんなとボウリングに行くのだ。男3、女3で、その中には最近気になっている木村くんもいる。中学生にもなれば男女で遊びに行くだなんて普通のことだとは思うけれど、部活で忙しいのを理由に誘いにも応…

ハネムーン

初めて彼女ができたとき、僕は昔、本当に小さい頃に、昆虫採集に熱中していた頃を思い出した。朝から暗くなるまでごはんを食べるのも忘れて熱中していた程なのに、鈍いせいか捕獲に成功したことは一切なく、そんなに虫が好きなら、と祖母が夏休みにデパート…

一生酔っ払って隊

「若草物語」の中で、四人姉妹がおうちの手伝いも何もせずに一週間怠け暮らした後でその退屈さを振り返り、「仕事なしの一週間なんて遊びなしの一週間と同じくらいつまらないのね。」と言う場面があります。 海坊主は飲み会が好きです。お酒の味も、酔っ払う…

奇跡は毎朝起きる

アニメのアンパンマンをDVDでかりて見ました。 改めて見ると、結構バイキンマンがひどいことをするのです。アンパンマンと対決する場面においては、巨大マシンで踏み潰そうとしたり、崖からぶら下げて「落とすぞ」と脅したり。 あわやというところでアンパン…

ワンダフルワールド

この生きにくい世の中を もっとすいすい泳げるように 足ひれをつけてみた すこしでも高く飛べるように 翼を広げてみた けれどそれでは駄目だった 私は人間だから 頼りない二本の足で 上手に渡らねばならないのだ 突然ポエム。 四国の銘菓に「母笑夢(ポエム)…

もしもアリスがとんでもなく汗っかきだったら

「アリス、人が本を読んであげている時に寝るものじゃないわよ。」 「だってお姉さん、そのご本、挿絵がちっともないじゃないの。」 昼下がりの木陰でお姉さんの朗読をききながら、その難しい内容に流れる脂汗をふいていると、なんと目の前を、懐中時計をぶ…

寝ても醒めても

高校、大学と続けた剣道ですが最近まったくやっていないにもかかわらず、肘から手首にかけて青あざが絶えません。不注意のせいか、飲食のバイト中にあちこちぶつけたり、火傷したりするみたいです。 それ、どうしたん?と尋ねられられたので、きかんといて・…

スカシジャノメの国

スカシジャノメ属、というのに属する種類の、羽が殆ど透明な蝶々がいるそうな。 有名であるにも関わらずその生態は謎に包まれている、とか何とか。 透明な体のパーツを持つ、ってどんな気分なんでしょうね。 こんな不可思議な存在があるというだけで世の中な…

苦いビール

知人が、遠くへ行ってしまうことを今日きかされました。 友人と呼んでよいのかも危ういくらいの仲だったのですが、それだけに容易くつながりが切れてしまって、会えないことへの寂しさすらもすぐに忘れてしまいそうなことが、寂しいのです。 会うのが不可能…

あじさい

雨に降り込められる、という言葉が好きです。 ざぶざぶと街を濡らす雨音をきいていると、透明なつるつるの膜が家全体を覆っているような感覚と、後部座席に身を沈めてただ運転手が車を動かすのにゆだねていればいい時の気持ちに似た安心感と無気力感に捕らわ…