私が人魚をさがす旅に出たのは、そういったいきさつからであった。
しかし、一体どこを探せばよいのか。そもそも実在するかも定かではないものなのだから、雲をつかむとはこのことだろう。絶対ないよな、と思いつつ念のため魚屋をめぐったものの、珍しいジュゴンの肉にありついたくらいで、もちろん人魚が店頭になまめかしく並べられて手招きしている店なんてない。
諦めかけて今日はもうパチンコでも打ってかえろう・・・と夕暮れの始まる青い街並みをとぼとぼ歩き始めたその時、見るからに胡散臭いひげ面の男が電柱の陰からぬっと現われて「姉ちゃん、いい情報あるで」と言ってにかっと笑った。
なんでも彼はすご腕の情報屋で、お金と引き換えに耳よりな話を提供してくれるらしい。
わらにもすがる思いで飛びついたのはよいが、魚屋巡りで交通費がとんだため財布の中はすっからかん、おろおろしていると目の前でカツアゲが始まった。
いかにも弱そうなひょろりとした少年が壁に押し付けられて、金髪の三人組にたかられている。
これはしめた、と素早くさりげなくその三人の中にまぎれこみ、「おうあんちゃんよう」「金だせよう、来月かえすからよう」などとヤンキー風に調子を合せていると、そんなに頭のよくないツッパリ三人組は全く気が付いていない。
あっさりと財布を奪い、ちょろかったぜ、などといいながらしかりちゃっかり四分の一の分け前をもらうと私はいちもくさんに逃げ出した。
後方から、あれあんなやついたっけ??という声がかすかに聞こえた。
「人魚は満月の雨の夜、柳の木の下に現れる。」
これが手に入れた情報だった。
なんてアバウトなんだろう、場所も指定されていないではないか。
しかし裏をかえせば、柳の木がある水辺ならどこにでも現われうるということだ。目撃情報が多いのも、割とよく出没しているということを示しているのかもしれない。
しかし満月まで待たねばならぬうえ、雨が降らなければまた次までチャンスは巡ってこない。
そんなことをしているうちにこの朱き唇があせてしまったらどうしてくれよう、乙女の命は短いのだ。
見上げると、冬の済んだ空には膨らみすぎたラグビーボールみたいな形の月。次の満月は近い。その時には何が何でも雨を降らすべく、私は雨乞い修行をするため神社の門を叩いた。
「たのもう、たのもうー」
(気が向いたらつづく)