貝殻をひろう夢
ちょっと潜っただけで、水温がぐっとさがるのだ。
はじめてシュノーケルを体験したとき、この感覚に背筋がぞくっとなった。
けれども、次の瞬間、
エメラルドの海を行き交う魚の色とりどりな美しさに目を奪われる。
小さい頃に一度だけ行った海外の島で、満点の星のもと、突然 怖い と感じたことを
思い出した。
美しさと恐ろしさは、きっと紙ひとえだ。
さらに深くもぐると、突然、金色のクラゲが現れた。
水面の方に押し出されるように上がって行くのを目で追っていると、
あとからあとから増えて来た。
あまりの光景に、一瞬錯覚かと疑ったが、光のあまり届かないこの場所で
何を反射するでもなく、たしかに透明な傘は金で縁取られていた。
ダイビングを終えて、浜辺を歩いた。
波は穏やかで、夕暮れの海風は甘い飲み物みたいに肌にべたついた。
だが決して、いやな感触ではない。
少し冷えたからだを、ぬるく暖めてくれる。
水をすかして、転がっている小さな貝が見えて、思わず拾いはじめてしまった。
集めたって、アクセサリーをつくるわけでもない、どうせ捨てるのだろうけど。
桜色のや白いもの、巻貝じみたものなどの、形の崩れていないのを、飽きるまで拾うと、
わたしは満足して帰ることにした。
お兄さん、と、背後から呼び止められた。
まさか、人魚でも居るのだろうか、
と振り向くと、残念。ヒトデだった。
ヒトデは固そうなやわらかそうな触手のいっぽんを伸ばすと、
お金を要求してきた。
貝殻を持ち帰るのに発生するという。
なんてがめついんだ、と呆れつつもいくらか問うと、2円だという。
わたしは、がめつい、なんて思ってしまった自分を恥じながら、
五円玉を渡して、つりはいらないと言った。
おわり