うみつづき、陸つづき -押海裕美ブログ-

思いついたことが、消えないように絵や文にしました。

ものがたり

電話が苦手

ねむりひめ 「わるいまほうつかいが、のろいをかけた」、と、うそをつき、 おうひは、くにじゅうのでんわを、 やきはらわせました。 ねむりひめ

ホタルイカの沖漬け

夜釣り 常春の国でも生活していくために仕事はせねばならぬ、 と、赤提灯のお店を開くことにした。 先ずは突き出し作るのに使う食材を確保せねば。

オンディーヌ

オンディーヌ、という、オペラだかバレエか忘れましたが、 そんな物語があるそうな。 うつくしい半魚人の娘が人間の王子に一目惚れします。 どうしても王子をわすれられない娘は、海の魔女に頼んで人間に変身 させてもらう。 魔女は言います。「もしお前が王…

おでんの憂鬱

おでんを作り始めてかれこれ14年になりますが、 最近、困ったことがある。 だいこんが、すぐにのぼせるのだ。 まだ、澄み切らず、色も白いうちから、のぼせた、もう出たい、と ぼやき始める。 だいこん、といえば、おでんの代名詞ともいわれる程の代表格。…

貝殻をひろう夢

ちょっと潜っただけで、水温がぐっとさがるのだ。 はじめてシュノーケルを体験したとき、この感覚に背筋がぞくっとなった。 けれども、次の瞬間、 エメラルドの海を行き交う魚の色とりどりな美しさに目を奪われる。 小さい頃に一度だけ行った海外の島で、満…

珈琲を売る

学校が終わると、あまりにも退屈なので珈琲を売りに行くことにした。 いきいき教室、なる放課後の活動に参加するのはおっくうだし、小学生ひとりで行けるところなんて かぎられている。 帰路に建つたこやき屋さんの匂いには魅かれるけれども、 一旦かえって…

michikusa

彼女の部屋には 何もなかった。 ただ、大量のバンドエイドと、空の金魚鉢が、 10帖の、一人暮らしにしては広大な部屋に 現代アートみたいに置いてあった。 僕が初めて入った時、 驚いたけれど 他のどんな部屋よりも彼女に合っている気がして 何も尋ねられな…

黒服のキャラバン

展示会とか懇親会とか、バイトとか仕事で 昼夜夕がごった煮みたいになって、ひどい寝不足だった。 今週最後の夜勤明けの日に いろいろあって荷物も多くて、 朝の光はもうどんどん強くなるので 首すじに陽が当たって、 いまにも眠りそうだった。 タクシーで帰…

ターリク

何か文章を書きたいなあ、と思ったら、ペンが無かったので 買いに行くことにした。 コンビニに行く途中、木蓮の花が咲き誇っていたので、はっとして足を止める。 この花はいつも、急に美しい姿をあらわす。 つぼみが小さな顔を覗かせ、あー、春かしら なんて…

シーシャ

「水タバコ」 と頼むと、一瞬はてな、という感じで首をかしげたのち、 「ああ、シーシャのことですね。」と、ターバンを巻いた女性の店員さんは頷いた。 若い世代の前で、カップルのことを「アベック」と言ってしまった時のような、ちょっと いたたまれぬ気…

らんおう

あるとき、世界から牛乳がなくなってしまいました。 王様級の人が、ある時電子レンジでホットミルクをつくろうとした結果(自らいろいろやる のが好きな偉い人だったのです)熱い膜でくちびるを大やけどしたそうな。 慌てふためいた大臣やその他の重要人物た…

フワフワの曲

しし座流星群が来るらしいから、ちょっと屋上行ってみてくるわ、 と、セーターをかむると、仕事仲間の鶴太が「しし座?」と首をかしげたので、 「あ、ちがった、オリオン座流星群だった。」 私は思い出した。背が高くてごつめな体格のイメージと裏腹に、鶴太…

彼岸花

きんぎょが、飼っているきんぎょがもう三年も生きているんですよ。 から始まり、きんぎょトークになりました。久々に、高校時代の先生をはさんでの飲み会の席です。 「不思議な事に入れる水槽にあわせて身体が成長するんだよ。家にあった大きな水槽に入れた…

七藝の青年

つい先日、洗濯ものを入れて畳んでいたときのこと。 暑くてからっと晴れていたので、もうぱりっぱりです。 お日さまの匂いを存分にすいこんだ衣服たちを適当な形に折っていると、ぽろりと、何かが落ちました。 思い出?…そうではありません。てんとう虫です…

映写犬

久しぶりに仲良しメンバーで旅行へ行こうという話になり、やってきたのは伊勢志摩。 顔をあわせたのはそれこそ10年ぶり。 それぞれの歳月を経てそれぞれの職についていた彼ら。顔ぶれは、歌人、ぬすっと、野球選手、霊媒師と まさにさまざまです。 最初はぎ…

ピノのワルツ

そういえば最近ぜんぜん来てもらって無いなあ。ピアノの調律。 きゅうに思い出したのは、コンビニで買ったピノを食べたせいでなく、甘さと冷たさの口どけを感じながら歩く途中、蝉たちの声が耳触りに感じられたせいだった。 いつもはうるさいながらに一定の…

口からネムシを出す人

私たちが冒頭だと思っている部分は実は、一番初めではないのだよ。 同い年だというのにすっかり白くなった頭髪と同じ、白いひげの下で唇がうごくのを眺めながら、 わたしはうなずいた。 ぼんやりするのは、日中だというのに見事に光の射さぬ暗い室内のせいか…

halam

ずっと前からだが、金魚の様子がおかしい。きちんと浮けなくなった。 尾ひれを下に垂直に立っているさまは、砂利に咲く花のようである。 がしかし、ご飯をやるときにおいては、気配を察知してか、 体全体を使いながら浮いてくるのである。いかんいかん、と首…

映画館とへび

ある朝目覚めると、布団と自分が一体化していた。 10年くらい前に買った安物のやつだ。どうせなら羽毛布団がよかった。 もちろん動けないししゃべれない。 ひとりぐらしなので誰にもきづかれない。 手をのばせば届く距離に携帯電話が転がっているのだが、…

協奏曲2

前回のあらすじ 初めて入るバーで、先客の前に飲み物が置かれていないのを見て戸惑う主人公X。 そんな彼に、感じの良い初老のマスターがこう問いかけた。 「お客さま、今日は何を読まれますか?」 ・・・マスター、「読む」と「飲む」をいいまちがえています…

協奏曲

布張りのような不思議な手触りの扉を押すと、一人だけ先客が居た。 お酒を飲むところにしては明るすぎる。 けれども暗い赤と焦げ茶に統一された店内はすっきりとして、中に立つマスターは口ひげがよく似合う渋い中年の男で、全体的に好ましかった。 一番奥に…

サーカスの宣伝

見るからに熱そうな、ぐつぐつのドリアを、運ばれてきた途端に女は手をつけた。 とろけたチーズが、知らない間に廊下の隅に作られた蜘蛛の巣のような細さで銀のスプーンにまとわりつき、紅がきれいにふきとられた口に吸い込まれてゆく。 熱くないの? ときく…

かこの鳥

それは昨夜のこと。 月も星もなく、とこか赤みを帯ひた空の下を生ぬるい風か吹きすさんていました。 立っているたけて汗はむてしょう、という気象予報士の言葉を思い出し、 そりゃあ歩いてたら汗たくにもなるわな、 と心て悪態をつきなから、首筋をつたわる…

ゆれる光

久々に見た映画の余韻に浸るために、シアターを出てすぐのところにある昔ながらの喫茶店で、僕は煙草をふかしていた。 世の中が便利になる一方で、レトロ、という言葉がファッションのようになってきているせいか。 狭い店内はいっぱいになってきた。平日の…

飲み込む

かすかな物音がして目が覚めた。 時計を見ると夜中の二時だ。 寝付きがよく、かようなことは滅多にないのだが、空気中をただならぬ気配が冴え冴えと横切っている。 横向きに寝ている後頭部でサカサカ、とうごめくのがわかったので、 梟なみの勢いで90度ま…

wonderland

近くの沼にでかい亀がいるらしい、という噂をききつけ、 日曜の朝っぱらから寒さを我慢して見にきてしまった私。 爬虫類好きでもないくせにまったく何をしてるのかしら私、と毒づいたその時、 目の前がひらけて問題の沼が現れた。 うすい陽がさしているにも…

ブラックスワン

電信柱の陰からそのひげのおじさんが現れた時私の頭にうかんだのは、 知らない人についていかない。 という教室に貼ってある標語よりも何より、「ちびまる子ちゃん」のアニメの主題歌の詩だった。 アニメーションの中ではかなりひょうきんそうなビジュアルで…

ぎょ

ごそり、 という嫌な音が耳の奥でひびいた気がした。 見るともう、肩まで僕は、黒い水につかっている。 反射的に岸へ戻ろうとする。 慌てたのがいけなかったのか、 何かに足をとられ、たちまち体が沈んで、息ができなくなった。 ボコボコ、という音と息苦し…

きんぎょ

毎日じめじめしていやあね、 などという同僚たちのつぶやきに反して、このところ僕の体はすこぶる調子がよかった。 原因は、どうやら頭のようだ。最近抜け毛が少ないし、なんとなくふさふさと決まっているのだ。 はたちを過ぎるころから薄毛が気になってい…

雨傘

ふとしたきっかけで生まれるにじみや、筆を落としたときに混ざる透明な色に魅せられて、 むむ子は水彩絵の具ばかりつかうようになった。 おかげで図工の時間に絵の具をはじめて教わった際、先生からほめられる対象をとおりこして怒られてしまったほどだ。 …