おでんを作り始めてかれこれ14年になりますが、
最近、困ったことがある。
だいこんが、すぐにのぼせるのだ。
まだ、澄み切らず、色も白いうちから、のぼせた、もう出たい、と
ぼやき始める。
だいこん、といえば、おでんの代名詞ともいわれる程の代表格。
食べにきた客の9割は先ず大根を食べますし、それしか食べないお客もいる
ほど。
おでん通は、大概はだいこんを食べてそのお店の味の善し悪しを
判断なさいます。
売れっ子ナンバーワンのだいこんの言う事ですから、少しくらいはわがままも
きいてやりたいものですが、すぐにのぼせられては、
味をしみ込ませることができません。
子どもに対するみたいに、
さあ、肩まで浸かって十かぞえて?
なんて、言ってみるものの、伊達に年食ってるだけあって、
なかなか素直に言う事をきいてくれないのです。
仕方がないので入浴剤を入れたところ、
お客さんからクレームがきました。
だしの熱さを忘れるくらい、何かに集中させればよい、と、
小説を与えてみました。
すると、今度は出てこないのです。
お腹をへらしたお客さんが、熱燗と一杯やろうと、ご指名をしておりますのに、
ちょっと待って!きりの良いところまで読んでから!
と、なかなか出てこようとしないのであります。
味は染むことはあって染みすぎることはないので、
いくらでも浸かってくれてかまわないのですが、それではいくらなんでもお客
さんのお腹がぺこぺこになってしまう。
なかなかうまくいかないものだ…
と、需要曲線と供給曲線を思い浮かべながら、途方にくれる冬の夜でございます。
おわり