うみつづき、陸つづき -押海裕美ブログ-

思いついたことが、消えないように絵や文にしました。

らんおう

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 あるとき、世界から牛乳がなくなってしまいました。

 王様級の人が、ある時電子レンジでホットミルクをつくろうとした結果(自らいろいろやる
 のが好きな偉い人だったのです)熱い膜でくちびるを大やけどしたそうな。
 慌てふためいた大臣やその他の重要人物たちが、王様の身を案じて、牛乳というものを国から
 いっさい無くしたのです。

 
 私はたいへん衝撃を受けました。
 
 白ご飯に牛乳をかけて、それだけで食べるぐらいに好きだからです。

 もちろん寝る時は抱いて寝ました。
 
 
 最後の牛乳パックを使い切ってしまうと、洗わずに時折匂いを懐かしんでおりましたが、
 いくら強いかおりとはいえ、時が立てばうすらぎ
 やがて消えるもの。
 
 それが果たしてどんな味だったかということも、人々は忘れつつあります。
 
 私はあせりました。そしてある行動に出たのです。

 あらゆる辞書から、牛乳という項目はマーカーで塗りつぶされていましたが、
 書物にはまだそこまで手が届きません。
 
 有給を無理矢理まとめて取った私は1日中本屋を駆け回り、
 あらゆる牛乳に関する記述のある本 を買い占めたのです。
 
 たとえばヘルマン•ヘッセ著の「車輪の下」では、
 釣りにゆきたいハンス少年が、コーヒーの冷めるのを待ちきれずに、
 牛乳を入れてひやす描写のところ。
 
 
 注意深くカッターで切り抜くと、
 蝶の標本を作るみたいにして、総勢何百冊に及ぶ書物の分、やってのけたのです。
 
  
 これで当分は困りません。
 
 朝は眠気覚ましの景気付けに、
 
 昼間はコッペパンを食べながら、
 
 夕方はブラックコーヒーに浸しつつ、
 
 風呂上がりには腰に手を当ててそれらのうちの、どれかを読めば
 
 
 ミルクを飲むのと何らかわりがあるのでしょう?