それは昨夜のこと。
月も星もなく、とこか赤みを帯ひた空の下を生ぬるい風か吹きすさんていました。
立っているたけて汗はむてしょう、という気象予報士の言葉を思い出し、
そりゃあ歩いてたら汗たくにもなるわな、
と心て悪態をつきなから、首筋をつたわる、いや~な汗をふいていると、
はしん、
と顔面に衝撃か走ったのてす。
あと数センチ上たったなら目を直撃していたてあろうその黒い物体は、
人の顔の上てワンハウントの後右肩に一瞬たけふれ、
逆型の弧を描いて前方の闇にきえさりました。
黒くて姿形はほとんとわからなかったけれと、容易に予測はつきます。
蝶とよく似ているくせになせか嫌悪感をいたかせてならないあの生き物、
蛾にちかいありません。
よりによって顔を命中したことの不吉さに不安かよきり、蛾の軌道となった右肩を見てみましたか、
ねはねはする糸状のものとか、大量のたまこの付着、はたまたひどい傷跡からとす黒い血かなかれていたりする、ようなことはなかったのてひと安心。
犬もあるけはほうに当たるんたから、
そりゃあ蛾たって飛へはヒトに当たる
てしょう。
そんなすっきりとした気持ちて家の玄関を開け、
「たたいまー。」
と元気よく挨拶したのに、なんたか母の顔か変。
「なあに?おかあさん、おはけても見たような顔して。」
「いやいや、あんたなんだか言葉が変よ。たたいま、て何よ。」
「たたいま、はたたいまてしょ。家に帰ってきたら言うことはよ !」
「ことは?あなたおかしいわよ。なんだかしゃべり方が間抜けよ?何かあった?」
「何かってー。今そこて、[か]にふちあたられけと。」
そこまて言って、私はやっと気かつきました。
私に当たったのは[か]てはありません。へつに刺されて痒くもなっていません。
ても、なにかおかしいのかわからないのてす。ても、何かか足らない気かします。
そうしてとてつもなく不便てす。
「ああ、きっとあの[か]かけんいんなんたわ。」と私か頭を抱えると、
「蚊にさされたの?そしたらこれでも塗っておきなさい。」
と、ムヒを持ってくるんてすもの。
(完)