ふとしたきっかけで生まれるにじみや、筆を落としたときに混ざる透明な色に魅せられて、
むむ子は水彩絵の具ばかりつかうようになった。
おかげで図工の時間に絵の具をはじめて教わった際、先生からほめられる対象をとおりこして怒られてしまったほどだ。
授業で好きなふうには扱えないせいで、かえってむむ子は家で夢中で絵の具をつかったのだった。
そんなある日のこと。
自分でもほれぼれするくらいにうまく、女の子が描けた。
背景を色づけるのもこわかったので、白いままにしておいた。
すると、ちょっと目をはなしたすきに、なんと絵から女の子がすっかり消えていたのだ。
真っ白の画用紙を手にきょろきょろするむむ子の目の前に、
さっき描いたのとまったく同じ姿の女の子が、にっこり部屋に立っていたのだ。
すぐに二人は仲良しになって、ずっと一緒にいるようになった。
名前をきくと黙っているので、ちょうど使っていたサクラ絵具にちなんでさくらちゃん・・・
とはせずに、「のぐっちゃん」と呼ぶことにした。
のぐっちゃんは可愛くてやさしくって、笑うと花が咲くようでも鈴が鳴るようでも、さかなが泳ぐようでもあった。
あまりに二人で部屋であそんでいるので、
たまにはみんなでお外であそびなさい、
とお母さんに言われたその日は雨で、
きゃあきゃあと騒ぎながら、
初夏のなまぬるい雨に打たれた。
のぐっちゃんと走った雨の道路は、
もともと雨が好きなむむ子でもびっくりするくらいにきらきらと濡れていた。
おわり