うみつづき、陸つづき -押海裕美ブログ-

思いついたことが、消えないように絵や文にしました。

ものがたり

黄色いウェルカムボード

水泳の補講を終えての帰り道。 ひどく長い時間をすごしたようなだるさをひきずりながら、なんとなく帰れずにいた。 自転車置き場にできた日かげに腰をおろした私とクロエの前を、 下級生の女の子が、蝉の抜け殻を数えながらゆっくりと横切ってゆく。 クロエ…

あな

にしても、家のすぐ裏がこんなにも入り組んでいただなんて。 迷路に迷い込んだ心境で、ぼくは飼い猫の後を追った。 名前をリオーダという、もうすぐ一年になる猫はとてもやんちゃで、 その朝も、新聞を取ろうと玄関のドアを開けた瞬間を狙い、とびだしてしま…

Croissant

人一倍、いいえ、猿一倍のバナナ好きを自負している、さるがいました。 ある夜、それはおいしそうなバナナが夜空に浮かんでいるのを見て、たいそう驚きました。 あまりにもおいしそうで、まるで光りかがやいているかのようです。 仲間や、とりやムシたちか…

PC

お風呂から出て髪が自然乾燥するのを待つ間、 パソコンに向かうことにしている。 することは、メールチェックと、今はやりのソーシャルネットワークを開いてみるだけ。 どちらも特にさかんなやりとりや更新を行っているわけではないから、 ショートカットの…

ぴょん

きのう、薬局にいたよね。駅前の。 わりと仲良くしているクラスメイトに話しかけられ、朝一でぞっとしてしまった。 私は、きのう薬局付近に行った覚えはない。 どころか、本を読んだり絵を描いたり、飽きたらCDを聴いて歌ったりしながら、 貴重な日曜を一歩…

みみをながくする

そんなことをするから、いざという時どこにやったかわからなくなるのよ。 彼女が咎めたのは、大事なメモ書きをティッシュの箱に控えている最中だった。 おさななじみではあるが久々に会ったのに、まるでわかったような口をきかれてついカチンとなり、 関係な…

うさぎさん

わりと評判が良かったわりになんでもない長編だと感じたのだが、 ふとした拍子にそのワンシーンを思いだす。 思いだすのは、小説の筋においてあまり重要でないセリフのやりとりばかりだ。 これが名作とよばれる所以なのか。 なぜか、人に本を貸すのが好きな…

クリスマスカード

大掃除をしていると、倉庫から寝袋が出てきた。 ああ、ジミーのだ、と、一瞬考えた末に思いだした。 ほとんどあかずの間となっていたその空間で、収納バッグは埃をかぶり、中におさめられた寝袋は持ち主の顔すら忘れてしまっているかもしれない。 ジミーの記…

切って貼って

仕事が早くおわったのでちょっと一杯やろうと店へ入ると、たつ子さんがスコッチを飲んでいた。 お酒に氷と炭酸を入れるのが許し難い彼女はストレートだ。 あんなの飲めたらかっこいいよなあと思いつつ、モスコミュールを注文する。 こんな時間に珍しいねと言…

遭う魔が時 ~イタリア編~

徒歩だとあまり遠出ができないので、隙をついて僕は自転車を持ち出した。 空気を入れたばかりらしく、ぼろい見かけの割りになかなかのスピードだ。 あっという間に、目の前には見たこともないような街並みが広がっていた。 なんて素敵なんだろう。ここを「…

遭う魔が時

家人の目を盗み、僕はひとりで屋根に上ることに成功した。 いつも外に出す時は邪魔なロープをつけられるか、だっこして放してもらえないのだが、 あの手この手を使って、とうとうひとりで出られる日がやってきたのだ。 こんちわ、これからお出かけ? おもむ…

マーメイドブルー

人魚の肉を食べると不老不死になるらしい。 っていう噂が地上では流行っているらしいわよ。 という情報を耳にした私は、 早速お肉を蓄えることにした。 もしも大量の人間が押し寄せてきたときにあげるものがなければ人魚の名がすたりますもの。 ところがど…

ちくおんき

江戸時代を舞台にしたゲームソフトの中に、虫売り、なるものが出ていたのを思い出し、 僕は虫を採集することにした。 それぐらいお金にこまっていたのだ。 夕闇があたりを包む時分から夜更けの間、虫取り網と虫かごを装着して夜な夜な歩きまわっていたのだ…

ひまわり

ものをよくなくすという性質は、自分がある程度面倒くさい思いをすればどうにかなる話しなので、真剣に治そうと努力したりなやんだりしない。 ただ、連日の猛暑の中でもトップを飾るであろう昼すぎ、自転車の鍵が見つからなくて、駅から15分の道のりを歩い…

ねこでんわ

私17年間、人を信じたことなんて一度もなかったのよ。 紅色の花をもてあそぶ手のすぐそばにある唇から、いつそんなせりふが出てもおかしくない。 クロエと一緒に居ると、形はどうあれ多かれ少なかれ、それと似たような気分になった。 それぐらい、彼女の…

ニムファエア

夏は始まりとともに終わってゆく感じがするのはどうしてだろうか。 特に好きだというわけでも、この季節に忘れられない思い出があるというわけでもないのに。 地元の比較的大きなお祭りで、 ビルと空の隙間から小さな小さな花火を見て、金魚すくいをしてか…

ないしょ話

人数が多いためかあまり冷房の効かない個室で、黒い羽織り物を脱いで彼女の腕があらわになった時、 はっきりそれとわかるくらいに場の空気が凍りついた。 だが、15年ぶりのクラス会で27歳になったみんなはさすがに大人だ。 かき氷機をぐるぐる回して氷…

あつい夏

私夏になると、すいかが主食になるのよね。 三月から一緒に暮らし始めた雨子が、視線をテレビ画面の方に向けながらさらりと言ったそのひとことを、 僕は、いかに自分がすいかが好きであるかを大げさに表した言葉だろう、とたかをくくって、気にもとめていな…

恋のイスタンブール

旅行冊子にインスパイアーされて異国の風景を描いた僕は さらにそれに刺激を受けてむらむらと異国へ旅立ちたくなってしまった。 貯金もほとんどなかったのだけど、古本からゲームソフトから祖父秘蔵のウイスキーまで売れるものは全部売り払い、モトカノに貸…

花占い

12人の怒れる男、だ。内容はちがったが。 下げてきた前菜の皿が載ったワゴンを押しながら、ホール長は昔の映画の邦題を思い出していた。 とある高級中華料理店に、巨大な回るテーブルを囲むその団体は、黒服ではなかったが、まるでいましがた葬儀に参列し…

ハッピーアワー

~ひょっとこ仮面の特徴~ 体は全身紺色タイツ。足は裸足。(最近では足袋を着用) ひょっとこのマスク。(お面ではない、被れるタイプ) 飲めば飲むほど強くなる。 場合に応じて体がお酒になる。 ある月の光のない濃い闇の夜、 ゴミ置き場で猫をいじめる悪者を…

ねこおと3

~前回までのあらすじ~ 酔っぱらって記憶をなくしている間に、酔拳マスター・ひょっとこ仮面 となって悪と戦っている運命を受け入れてしまった「僕」。 今宵はあなたの街に、愛と正義のために飲み過ぎちゃった彼が現れるかもしれない・・・。 初めのうちは…

ねこおと2

やはりまた、青あざができている。 小さい頃は青あざといわずに青たん、と呼んでいたっけ。 でも周囲の人に通じないことがたびたびあったのでごく一般的な青あざ、という呼称をつかっている。 そういえば「ぐっどぱ」をするときも昔は、 ぐッパーっぐッパー…

落書き(青)

なんとなく最近ひかれてしまう幾何学模様のブラウスを、その春の日も着ていたら、 ふと、ブラウスから糸が出ていることに気がついた。 ついいましがたまで、縦横に規則ただしくあわさっていたのに、独立して、衣服であることをやめてしまった糸はふてくされ…

スケッチ

~前回までのあらすじ~ 小説家志望のプレイボーイ西園寺と、彼に思いを寄せる三人が同居する家で、過去類を見なかった怪奇事件が勃発する・・・・!!! くそう!どうして語尾に「である」ばかり使ってしまうんだ!! 小学生の作文だってもうすこしましだぞ…

花束

どうでもいい他愛のない極みのお話なのに、どうしてこうも文章が長くなるのだろう。 すっきりとコメディタッチにまとめるつもりだった短編がまた四百枚を超える大作になった原稿を横目に、小説家志望の西園寺は、数えきれぬほど幾度も悩み抜いてきた同じ悩み…

チョコレート工場

異変を感じ、三日間ほどつけっぱなしにしていたピアスをはずしてみました。 するとあら、たいへん、開いてこのかた膿むことも病めることもなく、穴あけの際も拍子抜けしちゃうくらいにするっと空いてしまったトラブル知らずの耳たぶが、白いかさぶた状になっ…

春の土

~前回のあらすじ~ 足の人差し指の爪をうっかり伸ばし過ぎたことから、それを武器にして仕事をこなすスゴ腕の殺し屋になった僕をまちうけるものとは・・・・!? いつしか、「アイアイ」と呼ばれるようになった。 可愛い顔をしながら隠し持った鋭い爪で獲物…

アナコンダ

なんか最近やたら靴下のいたみが早いな。 指がすっぽり顔を出すくらいに景気よく破れてしまった靴下をゴミ箱に捨てながら、ふと疑問を感じたその朝、もう僕の人差し指の爪はおそろしく成長してしまっていたのである。 二度見どころか、そればかりでは信じら…

それは決してふれられないものと似ている

朝目を覚まして、枕の感触がいつもと違うのに気づいた僕は横になったまましばらく、さてどうしたものかと考えた。 枕がすり変わっているのは明らかだけど、バイト12練勤の翌朝だったのである。あとたっぷり5時間は睡眠を貪っていたい。 しかし、頭の下の…