ねこおと2
やはりまた、青あざができている。
小さい頃は青あざといわずに青たん、と呼んでいたっけ。
でも周囲の人に通じないことがたびたびあったのでごく一般的な青あざ、という呼称をつかっている。
そういえば「ぐっどぱ」をするときも昔は、
ぐッパーっぐッパーっぐっぱでぱっせんきょ、
というどこの方言なのだか呪文なのだかわからぬ歌が付いていたのに、今では「何それ?」と訝しがられるのを恐れて、「ぐっどっぱ。」
と、面白くもなんともないやり方でしているっけ。
と、あまりにも脱線がとまらない二日酔いの頭をぶるんと半周させて、
僕はもう一度、手首にできたあざを見た。
まるで、強い力で掴まれたような指の形をしている。
長袖をまくりあげてみると二の腕の付け根にも同じようなものがあり、
さらに左の太ももも一部紫いろに腫れあがっていた。
怪我自体は大したことがない。
けれど、こう何回も続くと不可解だ。
何が不可解かって、
お酒を飲んだ次の日に、どこか必ず怪我をしているのである。
確かに少しばかり飲み過ぎて断片的な記憶しかないので、
その間にテーブルの角で打ったとか、自転車で電信柱に突っ込んだとか、
そんなことがあったんだろう、
と気にも留めていなかったのだが、
ついひと月前ほどのこと。
実家近くで小学校時代の友人と飲んだ次の朝、シーツにべっとりと血のりがついていたのだ。
出所は僕の鼻であった。
出血自体は止まっていたのだが、顔の汚れ方が悲惨で、鼻の骨も少し痛い。さらに目の周りにマンガみたいにまるーいあざができており、
もうどう考えたって誰かとひどいけんかをしたとしか考えられぬ有様だったのである。
おれ、きのうおまえとけんかしたっけねえ。
何気ない感じでその友人に電話をして尋ねるも、
いや?ふつうにまたのもーぜ、って感じで帰ったよ。
と、答えがかえってきて、
頭がはてな、となったのである。
いったい全体、自分は酔っぱらっている間に何をしでかしているのだろうか。
不安を洗い流すためにシャワーをしていると、
茶色い水が排水溝に流れてゆくので、足の裏が土まみれだったことも発覚した。
おかしい。なぜはだしで地面を歩くことがあろうか。
このままでは、朝起きると横に女が寝ていました、どころではすまないぞ。
押入れから血のついた凶器と札束、なんてものが見つかった日にはもう・・・・
なんて悶々としていましたところ、出ました。
中学校の同級生と六人ぐらいで飲んだくれた翌朝、
うーん、起き上ると布団の中から、
ぴったりとした全身タイツのようなものが、いましがた脱がれたばかりのようにくるくるとくるまっていたのです。おまけに、ひょっとこの面(しかもすっぽりかぶれるようになっているのだ)までも。
なにがなんのことだかわからないので思わず、
こんなん出ましたけっど~、
とひとりごちてしまったが、
足の脛と右の頬にできたあざを見つけた瞬間、すべてを理解した。
そうか、僕は酔っぱらっている夜な夜な、
酔拳マスター・ひょっとこ仮面
として世にはびこる悪と対決していたのだ!(つづく)