家人の目を盗み、僕はひとりで屋根に上ることに成功した。
いつも外に出す時は邪魔なロープをつけられるか、だっこして放してもらえないのだが、
あの手この手を使って、とうとうひとりで出られる日がやってきたのだ。
こんちわ、これからお出かけ?
おもむろに声をかけられて見上げると、一羽のカラスだった。背中にりかちゃん人形をしょっている。
ちょっと、外の世界に出てみたくって。
なるほど、シャバへねえ。
いかにも何でも聞きなよ、という口ぶりなので、気になっていたことを尋ねた。
あの屋根の上に座って酒を飲んでる小学生は何だい?
ああ、と彼は言った。
あの子は大の学校嫌いで、いつも夕方にはああやってふてくされているんだ。酒でも飲まなきゃやってられないね、というふうに。
サラリーマンが会社帰りにチューハイをのむようなものさ。
でも、小学生にしちゃすこし大きすぎやしないかい。
なにせその子のサイズはこちらから推し量るに、人間の大人の三倍はありそうなのだ。
酒を飲んで気が大きくなっているからだろう。
それに、あんなにおおきくっちゃあ先生に見つかっても叱られっこないしね。
カラスはこともなげに言うと、羽根の隙間から煙草をとりだしてくちばしに咥えた。
紫いろの煙がゆっくり天空へ上がってゆき、夕焼けの中で雲と一体になった。
そういうものなのか・・・
わかったようなわからないような気持ちで周囲をぐるりと見渡すと、
なるほどロボットとかうさぎの人形とか変なのが、あちこちに居るのがわかる。
昼間、連れてもらって出た時には確かにあんなの居なかったのに・・・・
まあ、もう少し暗くなれば、やつらは全員本来いるべき姿・元いた場所にかえるよ。
今がたまたまそういう時間なんだ。
そういう君も、りかちゃんなんか背負ってすこしおかしいぜ。
思ったけどくちにはださなかった。
そういえば横には、いつもおもちゃにしている黄色い猫の置物が立っているし、
僕自身身に覚えのない皮袋を手にしている。
うすく透き通った水色から紫がかった灰色、だんだんとオレンジ色に染まってゆく空は、怪しくも美しく街を見下ろしていた。
完