わりと評判が良かったわりになんでもない長編だと感じたのだが、
ふとした拍子にそのワンシーンを思いだす。
思いだすのは、小説の筋においてあまり重要でないセリフのやりとりばかりだ。
これが名作とよばれる所以なのか。
なぜか、人に本を貸すのが好きな私は、ある日思いついて、
「話の中で強く心を動かされた部分」に傍線をひいてもらうことにした。
自分自身、傍線こそ引かぬものの、印象に残る部分を、別の小さなノートに書き出すことにしていだのだ。
後で見かえすと、
なるほどこの時自分はここに感動したのか、
と、そのときの心境が推し量れておもしろい。
他人の感動した部分がわかればもっとおもしろいだろう。
なので、人に本を貸すとき、必ず
良いと思った部分や、何かを感じた部分に傍線をひいておいてね。:
と忘れず付け加えることにしたのだ。
最近映画化もされてわりと話題になったその本は色々な人の手元に渡り、返ってくる度に線の数は増え、
もちろんラインは重複されることもあったので
しまいに真黒になってしまった。
ああ、いろんな人がいて、いろんな経験をしているんだなあ、
と、墨塗り教科書のようになった本をぱらぱらしながら、当たり前のことを思った。