うみつづき、陸つづき -押海裕美ブログ-

思いついたことが、消えないように絵や文にしました。

アナコンダ

 なんか最近やたら靴下のいたみが早いな。
指がすっぽり顔を出すくらいに景気よく破れてしまった靴下をゴミ箱に捨てながら、ふと疑問を感じたその朝、もう僕の人差し指の爪はおそろしく成長してしまっていたのである。
 
 二度見どころか、そればかりでは信じられず四度見してしまったくらいだ。
 人間の爪がこんなにも長くなるのかというくらい、しかもしそれは巻くことも曲がることもなく、馬鹿正直な僕の性格をあらわすかのようにまっすぐに伸びて、壁にもたれて座るその向いっかわの壁に、あわやつきささるかというほどなのだ。(僕の部屋は六畳、どれだけ長いのかお察しがつくだろう。)
 
 
 いわゆる出世足というやつで、なんか中指のように感じてしまうあの二本目の指である人差し指が、親指よりも長い。死角に入っていたためかその指だけ切り忘れをくりかえすうちに、こんな事態になったようだ。
 どうりで靴下が破けるわけだ。
 切ってしまおう、危ないし。でも、剣道部も引退した今、特に足の爪によって人を傷つける状況などしばらくはないだろう。そもそも人間の持つ何より鋭利なものは、言葉というウェポンなのだから。
 
 とかなんとか言いながら、このまま伸ばすことを決意した僕に、いち早く目をつけたのはヒットマン業界だった。
 裏のコネクションは蜘蛛の巣のように張り巡らされていて、しがない高校三年生のごく普通の男子の情報まで把握しえるのである。
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 勉強はそこそこ好きだったが、進路に漠然と不安を抱いていたこともあり、ほとんどふたつ返事でオーケーした僕はあれよあれよというまにすご腕の殺し屋になった。
 必要ないときは巻いて隠す、という「巻きづめ」の訓練も積んだ。
 金属探知機に反応しないツールである爪は飛行機の中でも役にたったし、万一へまをしてその場で警察をよばれるようなことがあったとて、巻きづめさえしておけば怪しまれることもないのだからこれほど楽なことはなかろう。