お風呂から出て髪が自然乾燥するのを待つ間、
パソコンに向かうことにしている。
することは、メールチェックと、今はやりのソーシャルネットワークを開いてみるだけ。
どちらも特にさかんなやりとりや更新を行っているわけではないから、
ショートカットの私がバスタオルを頭に巻いてシク教徒のようになっているすこしの時間で、
おおかた片づいてしまう。
昼間寝過ぎたせいで、目がぐるぐるにさえてしまった猫は、どうしても動くものが気になるようだ。
画面のまん前に来てくんくんと嗅いだり見回したりしながら、キーボードをたたく手にまつわりついてくる。
机に乗るのは悪い癖だけど、ぐるぐるの目が可愛いので怒らない。
やがて、猫の行動はエスカレートして、キーボードの上に立ち、がしがしと手を噛んだり、あちこちに体をなすりつける。おなかが空いているのかもしれない。
でも、一日分のごはんはもう平らげたはずだ。
私は机の中に入っている薬の存在を思い出す。
ジャンキーなピンク色で、錠剤というよりかはラムネのようだが、れっきとした薬だ。
飲むと猫と会話できるようになるらしい。
猫語を話せるようになるのか、
「にゃー」という猫の鳴き声が通訳されてきこえてくるのか、
イルカみたいに超音波で意志疎通が計れるのか、定かではない。
ただ、里親になる際、元飼い主が、
「どうしてもこの子の心を知りたいときはこれを飲んで。」
と、いくらかの砂と餌と一緒にくれたのだ。
肉球が好き勝手に叩くせいで、画面には意味をなさない文字が入力されている。
何かを伝えたいのか、かまってほしいだけか。
小さいこどもが突然不安になるように、ただ夜の深さに怯えているだけなのか。
あの薬を飲もうか。
ほんの少し考えるけれど、立ちあがりはしない。
ウィンドウズと、あちこちに開きそうな思考回路をシャットダウンして、
もう寝よう、と、猫に言う。
にゃーと鳴く猫を抱きあげて、私は寝室へと向かう。
終