何か文章を書きたいなあ、と思ったら、ペンが無かったので
買いに行くことにした。
コンビニに行く途中、木蓮の花が咲き誇っていたので、はっとして足を止める。
この花はいつも、急に美しい姿をあらわす。
つぼみが小さな顔を覗かせ、あー、春かしら なんて
一進一退であたたかくなってゆく空気にほのぼのとした時間を与えてくれる、桜とは違う。
「日本むかし話」の中で、すばらしいので是非とも伐りたいのに、斧を持っていない時だけ
にしか見つけられない木を、思い出す。
このお話の結末はおそろしく、満開の木蓮をはじめて見た時わたしは怖かったので、
そこも似ている。
見とれた後に進行方向を向くと、青いシャツを着た男性が歩いてきていた。
よく陽に灼けている、と思ったら、顔立ちが日本人では無いようだった。
額の高さから少し窪んだ所から覗く黒い瞳は、どこか遠くを見ている。
もしかして、すぐそこのパン屋さんに向かっているのかもしれないけれど、
それは私がいつも「きな粉もっちー」を買うお店とは、同じであって別のものかもしれない。
簡単に、そしてちょっとコミカルにいえば、
「きな粉もっちー」は、「星の砂パン」という商品名になっているかもしれない。
自分を遥かに通り越した空間を見ているのだから、こっちを見ている筈はなかったのに、
「流れ引力」のようなものを感じて素早く目をやると、
「流れ目線」のようなものと、かち合ってしまった。
どきん、と大きく胸が鳴り、
その時、自分はいつでも、どんなに遠くへだってゆけるのだ、
という気がした。
彼と私はすれ違い、
ファミマで86円の水性ペンを買う。
帰って早速ノートに、今あったことを描くと、
ただのミーハーな日記になってしまっていた。