~前回までのあらすじ~
たまねぎを買い求めに街へ出たこうもり男(現 洋食屋のオーナー)
彼の前に姿を見せた仇敵、猪野川は、彼の目の前でこうもりに変身して空の彼方へすがたを消す。
え?こうもりに変身?なんじゃそりゃあ~??
という疑問符が今ここでエクスクラメーションマークにかわる!!
遅刻がつづいて工場のボスに怒られたときや、
怒られて呼び出されてこってり絞られた次の日からまた遅刻して怒られた日のかえり道。
なんで自分が早起きしなきゃならんのだ、夕方から働けばいいだろうが
大体なんじゃいあの態度、いくら上司やからって偉そうにもほどがあるやろ
なんてもやもやが溜まってきた時は、両の手をこっそり翼に変え、
暮れかける空の青い闇へと身を溶けさせた。
それにしても夕方の電車は人をぎっしり詰め込んでよくあんなに走るもんよのう、
と、遠くから見てもそれとわかるくらいの帰宅ラッシュを逆さに眺めつつ、
木にぶらさがってうとうとすることができた。
いらだちも疲れも闇のなかに置き去りにして、
翌朝はフレッシュマンのごとく元気に出勤した。
ボスもこれには驚きあきれつつも、さわやかさ故に「にくめないやつ…」などという見方に次第に
変わってゆき、同僚たちの態度もまた然りであった。
特に親しい友人もいるではなかったが、まあまあ慕われて、
時々は徹夜で麻雀をしたり(彼はめっぽう強かった。夜のせいで眠くなる事も、
無駄にハイになることもなかったため)だれかの狭い部屋で安酒をあおったりして楽しかった。
しかし、
20をすこし過ぎたくらいから、満月を見てさめざめ泣くかぐや姫のごとく、
夕焼けを見たときに感じる物悲しさが濃くなってゆく。
選択のときが近づいたのがわかってくるのだ。
このまま人間として生きるか、こうもりとして生きるかを選ぶそのときが。
これが、こうもり男の宿命である。
そうして選択の日を境に、
自在に使えた変身の能力は無くなり、
彼らは只の少し孤独な人間か、人間から見たら只の獣でしかない蝙蝠のいずれかに、
永遠になってしまう。
つづく