蝉について最近よく言及している気がします。
外見が好きというわけではなく、どちらかというと気持ち悪いと感じてしまうし、
触りたくない。
生態や一生についてちょっと興味はあるものの、積極的に調べようという程ではありません。
いってみれば、クラスの中でちょっとだけ目障りな女の子、っていう感じです。
この目障り、が、気になる、に移行する可能性はなくもない。ここは男子目線。
そういえば、おととしだったでしょうか。
道で拾った蝉の抜け殻を、
家に持って帰ってしまったことがあります。
コオロギと違って、虫用の水槽に入れてキュウリの輪切りを置いた所で食べないし、
死ぬこともありませんが、成長もしません。なんせ、抜け殻ですから。
かの有名な古典に、同じ名でよばれる女がでてまいりますように、
うつせみ、という響きとか、その単語が彷彿とするはかなげで透明な様子。
とは裏腹に、本物の抜け殻はけっこう生命感に溢れています。
いまの今まで蝉が入っていたのだから当然ですが、
足の節の一本いっぽんや、目の感じとか口もとの、ぼぼぼんってなってる部分とかが、
忠実すぎるぐらいに再現されておる。
そんな持ち方するくらいなら持たなきゃいいのに…
ってくらいの人差し指と親指でできるだけ触れる表面積を少なくする方法、
で家に運び、部屋の本棚に飾ってみました。
気持ち悪い。
細部まで見ればみるほどに。
愛着がわいたりとか、気がつかなかった美しさに目覚めたりとか、の期待は見事に打ち破ら
れました。夢やぶれて空蝉あり。
どうしよう、せっかくやからスケッチでもしたいけど、神経を使い過ぎたので今はやりたくない
し、かといって捨ててしまったら、後日、二個目の抜け殻を持ってくるエネルギーは
もうわたしには残されていない。
とりあえず、目につくところにあると嫌なので、見えないところに移そう、
と、例のつまみかたをした瞬間、生命をもっていない筈のその足に生えたぎざぎざが、
わが指先を攻撃しました。
ぎゃっいてて!
と、思わず取り落とすと、足が一本かけてしまいました。
もう背筋はぞくぞくです。
なんとか見えないところにおさめたものの、
その部屋にいない時でも 「わたしの部屋にある奇怪な物体」は頭の隅に陣取り、
ついには夏の記憶の一部を占領したのでありました。
日焼けがひりひりするみたいに、夏の思い出はこんな風にして、すこしは痛みをともなって
いなくっちゃね。うん。