うみつづき、陸つづき -押海裕美ブログ-

思いついたことが、消えないように絵や文にしました。

Birthday Card

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(小説つづき)
~前回までのあらすじ~
 将来おめかけさんのエキスパートになることを誓った少女はがいつまでもぴちぴちでいるために、不老不死の効力があるという人魚の肉を探すべく旅に出る。
 以外に早く出会えたものの、不老不死であることの悲しみを説く人魚を前に、少女はおどろきで目を白黒させてしまい、もとにもどらなくなって四苦八苦する。



 やっとのことで目を元に戻した少女が向かった先は、ラブワゴン。
 ピンク色の車体がかわゆいのですが、走るたびに異常な程ガタガタ揺れるのは、ビジュアルにこだわった挙句ハート型にしつらえられたタイヤのせいでしょう。
 
 運転手のロバート(32)にあいさつのキスをして意気揚々と乗り込むと、驚いたことに、座席スペースに小ぶりのこたつが置いてあるではありませんか。
 よくよく見ると中には若い男。
 「もしもしはじめまして。あなたはあいのりのメンバーですか?」
 「そうだよ。よろしくね。」
 少し自己紹介的なことをした後、思い切って聞いてみました。
 「なぜこたつに入っているの?」
 「時間がもったいないからさ。」男はこともなげに答えます。
 「冬の風物詩であるこたつ。この気持ちよさはどんな暖房器具にも変えられないけれど、こたつに入ってゆっくりしている暇なんてない。そこで僕は考えたんだ。こたつを体にとりつけちゃえばいいやっ、てね。」
 
 何でとりつけてるんだろう・・・疑問は星の数ほどだったけれど、それ以上はなんとなくきけません。
 そうこうするうち、あたりはいつの間にやらサボテンのはえる乾いた砂地。
 看板を両手に掲げた新メンバーの姿が見えました。
 目をこらすと、どうやらこたつやテーブルの類は体に付いていないようです、ほっとしたのもつかの間。バスがちかづくにつれ全身がみみなし法一のように文字で覆われて真黒なのが明らかになりました。

 まだよかったことにそれはお経ではなく、新聞記事。
 スーツ自体がすべて、新聞紙でできていたのです。
 「すす、すてきな服ですね。でも、いったいなぜニュースペーパーなの?」
 彼は、聞かれることが不思議だとでもいうように平然と答えます。
 「だって、新聞読む時間がもったいないからさ。
 これだと、会社に出勤しながら電車の中ででも、信号待ちの時でも、トイレにいながらでも、空いた時間を有効に使えるだろ?」
 親指を立ててスマイルする彼を、あ然と見つめながら、口だけで無理やり笑いを作ります。


 ああ、次こそ普通の人であれ。
 願いもむなしくやってきたのは、
 
 耳の横にボールペンだけにはとどまらず筆記用具全般をさしている男
 眠そう、ていうかむしろ寝ている男(会話の内容はすべて寝言かと思われる。受け答えは可)
 貧乏ゆすりが高じて、それによるモールス信号で話す男 

 とそうそうたる顔ぶれの五人が揃い、
 必然的に彼らの矢印はすべて、紅一点である少女へとつきささったのでした。