伊勢に行った時の事。
のんびり遊覧船で楽しんでいると、たくさんのカモメが船のすぐ近くを飛び交っておりました。
なんだなんだ、とデッキに出ると、なるほど乗客が餌づけをしています。
餌といっても、売店で売っている黄色い、スコーンという名のスナック菓子。
それでも鳥たちは、よほど空腹だったのかと心配になるほどの必死さで、風に流されあさっての方向に飛んでしまったものも、水面に落下してしまったものも、間髪いれずにくちばしでくわえ去ってゆきます。
しばらくすると、今度は別の、ひとまわり大きな黒い影が近づいてきました。
どうやらとんびのようですが、様子をうかがうように頭上を旋回するさまは、獲物の死を待つハゲタカのそぶりを思わせます。
食べ物の気配が確信できたためか、本格的に取りに来たとんびたちの接近はカモメよりもはるかに大胆。ピンポイントで、触れそうなほど傍までやってきてはプレッシャーを与え、スナックをあげているというよりかは、長いこと手に持っていたら手ごと喰われそうなのがおそろしくて、慌てて放り出してしまうのでした。
ライバルが現れたカモメも気が気ではありません。
つぶらな瞳をこの時ばかりは鋭く光らせながらぶんぶん飛び回るさまは、ジョナサンよりはむしろ「ジョー姐さん」といった方が近いくらいの迫力。
スナック菓子も底をつき、このままではアブラアゲのようにさらわれてしまうのでは、という不安もあり、船内に戻って無事遊覧を終えたのですが、港に戻った際、つい先ほどまで必死の形相でぶんぶん舞い狂っていたカモメたちが、風呂にうかべるアヒルの置物みたいに涼しい顔でぷかぷか浮かんでいたのには驚きました。野生に生きる者の切り替えの速さに畏怖と尊敬の念を感じました。
お菓子あげてる最中数えきれん位のカモメと、黒々とした四羽のとんびに囲まれて、映画『鳥』のシーンが次々頭に浮かびました。
本気でかかってこられたらひとたまりもないよなあ、と、自分の手の平に食べ物の匂いがしみついてて、外に出るたび鳥から襲撃うけたらどうしよ、とか思いました。