今は昔、竹取の奥菜というものありけり。
いつものように竹林で遊んでいると、根元のぼんやりと光るものが一本あった。
なんだろう、これは。
奇怪に思って切ってみる。するとなんと中は空っぽで、よく見たら傍に、とてもかわいらしい少女が座り込んでいた。
こんなこところにいてはいつ山賊の餌食になるかしれん、と迷わず連れて帰ってその日から、日に日にまばゆく美しくなるため、「まばゆ姫」と呼ぶことになった。
その美しさと言ったらもうすごいのなんの。みるみるうちに巷で噂が流れ、わらわら懸想してくる男たちをちぎっては投げちぎっては投げていた柔道五段の奥菜でさえも、追い払えない豪傑が五人も現れたほどだ。
まばゆ姫は「あたくし男には興味がございませんの。」
と一蹴するかと思いきや、割とシャバへ遊びにいったりハンドバッグを買ってもらったりして楽しんでいたようである。
しかし、日が経つにつれ元気がなくなり、あたりが夕闇に包まれだすと、空に輝く月を見てはさめざめと泣くようになった。
「どうしたんだい、まばゆ姫。」
「実は、次の満月の夜、お迎えがきたらかえらねばなりません。」
よよよ、と泣き崩れるのを励まし、絶対に月へなぞかえすものかと意気込みも凄い壮年の奥菜であったが、無情にもお迎えはやってきてしまった。
そばにいる人の毛孔さえ見えるぐらいに照り輝くまん丸い月を背景に立つ、美しい男をひと目見ると、奥菜も、五人の求婚者たちも、へなへなと力が尽き、立ち上がることさえできない。
泣く泣く手をとられる姫の姿をただ何もできずに見守るばかり。
「さあ、姫かえりましょう。これを着けるのです。」
と、取り出されたのは、ウサギの耳が着いたヘアーバンドであった。
「はあ、ぶっちしちゃって、マスター怒ってるかなあ。」
しぶしぶ装着し終え、可愛らしさと妖艶さを増した姫が物憂げに言う。
「大丈夫、もう怒ってないよ。それより、人気ナンバーワンのバニーちゃんが戻ってきてくれなきゃあ、お店の活気も出ないからねえ。」
プップーと、どこからともなくタクシーがやってきて、二人はそれに乗り込んだ。その際、「じゃね~。今までゴハン作ってくれてありがと☆」と、超軽い感じの感謝がありけり。
ドライバーに行き先が告げられる。
「バー・ムーンライトまでお願いします。」
(完)
母が夜空を見ながら、
昔はウサギが二匹いたのに、今は一匹しかいないように見えるなあ
と呟いていました。
そういえば確かに、以前はうすを挟んだ二匹のウサギのシルエットだったのに、今は一匹の姿しか見えません。もう一匹はどこへ行ったのでしょう・・・などと色々考えながら思いついた物語です。