うみつづき、陸つづき -押海裕美ブログ-

思いついたことが、消えないように絵や文にしました。

第二部のはじまり

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 ひとりの男がいた。


 彼は、夕暮れを境に、自在にこうもりになることができた。

 うまれつきそうだったが、
 それが特殊なことであり、
 まわりに存在する大多数は持ち合わせていない能力であることは、物心がついていく過程で
 わかってきた。

 うまく喋れないぐらい小さい頃も、人に変身する様子を見られないように気をつけていたと思う。

 おそらく本能的な何かがはたらいたのだ。

 親に教えられたわけではない。そもそも、親、というものの記憶が無い。
 
 彼の種族がみんなそうであるように、気がつけば一人であり、
 周囲には、育ててくれはしたものの、互いに気を使わねばならない人々が居た。


 彼の場合は、遠い親戚の男女であった。しかもこの二人は夫婦ではなく、不仲であった。
 にもかかわらずワンルームのマンションで同棲中。
 三者の間には常に気まずさが流れ、
 スペース的にもメンタル的にも出て行かざるを得なくなり、
 中学を卒業したその足でひとり暮らしを始めたのだ。


 見た目も子ども、頭脳もどちらかといえば子ども。たいへんなことである。
 けれども大丈夫だった。なぜなら、こうもりになれたから。



 (つづく)