~前回までのあらすじ~
きらしていたタマネギを入手するべく街へ出たこうもり男。(現 洋食屋のマスター)
そこへ、ひょんなことから出会った天敵。最愛の妹を捨てた、猪野川。
憎しみの視線を向けつつも、どこか憎みきれない猪野川のたたずまい。
今夜、こうもり男の秘密があきらかに…!
こうもり男は、妹の子どもの名前を素直におしえてあげた。最近流行のキラキラネームなどではない、
女らしさと賢さをそなえたスマートな名だ。
猪野川は、「いい名前だ。」
と微笑むと、コートの裾をひるがえした。
彼は、猪野川がきびすを返したのかと思った。
しかし、次の瞬間には猪野川の姿はなく、薄暮れの青にただ一匹、影絵のような蝙蝠が居た。
ひら、というより、ふらふら、に近い動かし方の羽は、
全身をはばたかせるには少し頼りないくらいに薄く、
おかげで蝙蝠は一匹だけだと黒く見えない。
蝙蝠に姿を変えた猪野川は、
そっけない挨拶みたいに少し頭上を旋回し、
そのまま風に乗って遥か彼方の空へ飛去った。
こうもり男はなぜだか直感する。猪野川は、もう二度と人間の姿に戻らないだろう。
いや、戻れない筈だ。ちっとも親しくなんかない間柄でも、
同じ種族の体内に流れる血や、内臓が、そう告げていた。
(第一部おわり 第二部につづく)