うみつづき、陸つづき -押海裕美ブログ-

思いついたことが、消えないように絵や文にしました。

黄色とくろ

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 ※あらすじ

 こうもり男 という種族がいます。
 彼らは人間の姿をしていて、
 夕暮れ以降になると自在にこうもりに変身できる。
  
 ここに、洋食屋を営んでいる一人のこうもり男がいる。
 これは、彼の半生にまつわるお話。
 こ、で、やたら韻をふんでいますが、これはわざとではない。



 ミー太郎がこつ然と窓枠から姿を消したので、
 こうもり男は血相を変えて下をのぞいた。まさか落ちたのだろうか。
 猫が身軽といえど、ここは三階。怪我するどころではすまないかもしれない。

 
 しかし、ミー太郎は落ちたのでなく、向かいの屋根に飛び移っていたようだ。
 けろりとした様子で、にゃー、と鳴いているので、彼はたいそう安心した。
 
 が、それも束の間。視界の左端上部から、
 黒い大きな影が凄い速さで、迫ってきているのだ。からすだ。
 
 
 こうもり男は、身を躍らせた。
 からすのそれより大きな、しかし薄い翅を羽ばたかせ、
 屋根の上めがけて飛んだ。
 
 殺気を敏感に感じ取ったからすは、
 こうもりによる攻撃を受ける前に、進行方向を変更して彼方へとび去った。
 それは一瞬のできごとだ。
 
 しかし、こうもり男にはゆっくりに思えた。
 彼のこの先の生き方を決定した瞬間にふさわしい、
 スローモーションの映像であった。


 
 ちょうどこの時この場所で、
 こうもりに変身したことによって、
 彼は二度と人間にもどれなくなったのである。

 屋根の上で、
 陽光の下で、みー太郎の瞳は小さくなっていた。
 黄色いビー玉のような眼球に、黒い小さな三日月型が、
 蝙蝠という獣のすがた形をじっと捕らえている。

 
 

 (つづく)