小さい頃、すこし変わった友達がいた。
名を、みーちゃんという。
年齢も性別もさだかではない。
というのも、幽霊だったから。
時々えらそうぶった口調になるのと、「みーちゃん」という呼び名により、私よりかすこし年上の、
おねえさんだったことがわかる。
呼ぶ時はいつも「おばけの」と冠詞をつけていた。
おばけのみーちゃんはどうやら二人いて、
ひとりは親切で、ひとりは少し意地悪だった。
後者は、「おんなじ姿になってあそびましょう」というようなことを言って私に布団を頭からかぶらせ、
歩く裾をふんづけて転ばせたりしてきた。
ザ・おばけ、というような、布(この場合はふとん)を頭からかぶった姿をしているので表情がわからず、
声も細くて高い。
夜、私が部屋にひとりでいるときにしか現われない。じつにミステリアスだ。
初めて、といかないまでも、親にかくしごとをするのが珍しかった時代における、
秘密の友達。
そういったさまざまな要素がかぶさりあって、じつに貴重な存在だった。
ここでタネあかしをしましょう。
私には姉が二人いた。
二人にとって幼い妹はてごろな遊び道具。
悪態をついていじめるだけでは飽き足らず、
みずからが架空のキャラクターに化けて妹をだまし、陰で大笑いしていたのです。
とっくの昔に正体を知ってしまった今でも、ふとんおばけのみーちゃんを思うと、
会わなくなってしまったかつての親友を、ふと思いだした時と同じように胸が痛くなるのである。
あまりに若かりし頃の両親をアルバムの中に発見した時や、
言おうと思ったことが結局言いだせずに終わり、
喉もとかその付近まで出かかった言葉が、体の中でじわじわ溶けてゆくような、
失われたものに対する愛しさ。
「はじめてのおつかい」というTV番組に見入ってしまった時に海坊主はさびしい、と感じるのですが、それはこれとおなじ由来だとおもわれます。