近くに美味しいパン屋さんがある、というので探しに行きました。
住所と、道にあるインフォメーションを頼りに歩きます。
なかなか見つかりません。
冬の雨は冷たく、雪に変わることもないまましとしとと降り続く。
そのうちにどんどん暗くなって、どこをどう歩いているのかさえも
わからなくなってきました。
何かしらんけど急に辿り着くかも、というかすかな希望が、
目にうつる建物すべてを、パン屋さんに見せます。
お!いいにおいする、パンの焼ける匂いか…
と顔を上げれば、お肉屋さんのコロッケでした。
途中、ブックオフやTSUTAYA、大型スーパーのライフなど見つけます。
あら、徒歩圏内にこんな便利なものがあったのね。
と喜びつつも、迷っている最中なので、もう一度来いといわれれば無理でしょう。
暫くは来る事もあるまい…と、
試験ができなかった受験生が、志望校を目に焼き付けて帰るような気持ちで、
それらの店舗に別れをつげる。
もう見つかるまい。時間も推してきたし、そろそろおうちに帰らねば。
ああしかし、方向がわからぬ。
もはや目的はもう、パン屋さんではなく無事家に戻ることです。
うすあかくいっそう陰惨な雲から、みぞれはびちょびちょしずんでくる。
(※宮沢賢治「永訣の朝」より引用)
と、霧がかった灰色の空に、青白い光がぼんやりと浮かびあがりました。
スカイツリーです。
おお、助かった。あれを目印にすれば何となく帰れそうだ。
砂漠でオアシスを発見したキャラバン張りに、
光めがけてずんずん歩く。
クリスマスのライトアップのセンスが無かったとか言ってごめんなさい。
月の無い海を、灯台のごとく照らす高い塔の懐に抱かれながら、
イースト菌は今夜もはたらくのでしょう。
おわり