うみつづき、陸つづき -押海裕美ブログ-

思いついたことが、消えないように絵や文にしました。

皆既月食

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 歩きながら見上げると、
 黒いものに三分の二以上隠された月が見えた。
 
 雲、というにはくっきりとし過ぎているが、想像していた弓型の影ではない。
 
 もう始まっているのか、それとも曇っているだけなのかしら
 と、周りをみわたせば、路上の人々が立ち止まって空を見上げていたので、どうやら
 あれが噂の皆既月食らしい。
 
 普段、特に注意して見ることの無い空を、たくさんの人が、同じ時間に見つめているのは
 電気屋さんのテレビを、町内の人がこぞって視聴しに来ていた古き良き時代を思わせる。
 その時代は生まれていなかったけれど。


 向かいから長い髪をなびかせてやってくる細身の女が、妖しく見えます。
 
 店先へ出て来た、背筋のしゃんとした女将さんが、
 手打ちそば の、のれんを仕舞おう途中で斜め上に視線を投げる様が、槍を持った神話の女神に
 見えなくもない。月から吹く風が、紺ののれんをはためかせている。


 月食があるという知らせが、街を、現象そのものよりも非現実的にしている夜でした。