うみつづき、陸つづき -押海裕美ブログ-

思いついたことが、消えないように絵や文にしました。

第十二夜

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 こんな夢を見た。
 
 いやに照明の明るいどこかの洋食屋にいる。
 四方の壁は地中海の空を思わせる抜けるような青で、テーブルやカーテンもすべて、目がちかちかするような赤や黄の配色だ。
 「こんなに室内に居てまぶしいと思ったことは初めてだ。」
 そのようなことを隣に座った誰かに向かってつぶやいている。
 
 太った店の女主人から、突然「しばらくこの場所を見ていてほしい。」と言われ、慌ててその後用事がある旨を伝えるのだが、急いでいるらしく彼女はさっさとその場を離れてしまう。

 さて、どうしたものか。
 ぼけっとまぬけな顔して座っていると、どこからか小さい牛が何匹も侵入していたので、マダムはこの見張り番を私に託したのかと、動き回る牛たちをとりあえず捕らえようとするのだが、なかなかすばしっこくてうまくいかない。

 真黒の、おそらく食用牛だろう。
 ここは洋食屋だから、順々にミラノ風カツレツとか、ほほ肉の煮込みブルーベリー添え、とかの料理にされる未来を予感して、こんなに必死で逃げるのかもしれぬ。
 そういう視点で見ると、瞳に悲しい光を湛えているようでむしろ哀れなのだが、こちらも引き受けたからには仕事をこなせばなるまいと、やっと一匹つかまえると、あら不思議、途端にぬいぐるみに変わってしまったのだ。
 それも、まざあぐうすの店に並んでいそうな、可愛らしいぬいぐるみ。
 捕まえた時は確かに、荒い息遣いとすべすべした獣の毛の肌触りを感じたのに。

 しかし、まあいいか、とうっちゃっておくと、わるい魔法が解けたみたいに、生きた牛に戻ってしまった。
 捕まえるとぬいぐるみだが、手放すとまたあちこち動き回るものだかららちが明かない。一向に捕獲できぬ。
 
 
 そうか、だからビフテキはとんかつや唐揚げにくらべて高級なのか、
 と納得したところで目が覚めた。





 夏目漱石が書いた『夢十夜』のオムニバス映画があります。
 DVDで見ましたが、いろいろな監督が自己流の解釈をして作っているようで、ホラータッチもあればファンキーなものもあり。
 でもなんだか、全体に不気味な空気が流れているのです。不安、とでもいうのでしょうか。
 夢ってそもそも正体のわからないことだからそう感じるのでしょうかしら。