#小説
こんな夢をみた。 富士山に登る。無事頂上に辿り着くが、雨なのか風なのか、天気が良くない。どんより雲がかかり、名物であるご来光にはとてもお目にかかれそうにない。 きゅうに、音楽がながれてくる。 ロックの、それもいかにも激しいやつだ。 バラバラ、…
長いズボンの寝巻きを着ると暑いのですが、半ズボンだとひざ裏に汗がたまりませんか? それは良いとして、こんな夢をみた。 おそらくテーマはトリカブトです。 トリカブト、というと、本の中でしか知らないが猛毒を持った植物だそうです。 どんな見た目をし…
そういえば最近ぜんぜん来てもらって無いなあ。ピアノの調律。 きゅうに思い出したのは、コンビニで買ったピノを食べたせいでなく、甘さと冷たさの口どけを感じながら歩く途中、蝉たちの声が耳触りに感じられたせいだった。 いつもはうるさいながらに一定の…
私たちが冒頭だと思っている部分は実は、一番初めではないのだよ。 同い年だというのにすっかり白くなった頭髪と同じ、白いひげの下で唇がうごくのを眺めながら、 わたしはうなずいた。 ぼんやりするのは、日中だというのに見事に光の射さぬ暗い室内のせいか…
ずっと前からだが、金魚の様子がおかしい。きちんと浮けなくなった。 尾ひれを下に垂直に立っているさまは、砂利に咲く花のようである。 がしかし、ご飯をやるときにおいては、気配を察知してか、 体全体を使いながら浮いてくるのである。いかんいかん、と首…
ある朝目覚めると、布団と自分が一体化していた。 10年くらい前に買った安物のやつだ。どうせなら羽毛布団がよかった。 もちろん動けないししゃべれない。 ひとりぐらしなので誰にもきづかれない。 手をのばせば届く距離に携帯電話が転がっているのだが、…
前回のあらすじ 初めて入るバーで、先客の前に飲み物が置かれていないのを見て戸惑う主人公X。 そんな彼に、感じの良い初老のマスターがこう問いかけた。 「お客さま、今日は何を読まれますか?」 ・・・マスター、「読む」と「飲む」をいいまちがえています…
見るからに熱そうな、ぐつぐつのドリアを、運ばれてきた途端に女は手をつけた。 とろけたチーズが、知らない間に廊下の隅に作られた蜘蛛の巣のような細さで銀のスプーンにまとわりつき、紅がきれいにふきとられた口に吸い込まれてゆく。 熱くないの? ときく…
それは昨夜のこと。 月も星もなく、とこか赤みを帯ひた空の下を生ぬるい風か吹きすさんていました。 立っているたけて汗はむてしょう、という気象予報士の言葉を思い出し、 そりゃあ歩いてたら汗たくにもなるわな、 と心て悪態をつきなから、首筋をつたわる…
久々に見た映画の余韻に浸るために、シアターを出てすぐのところにある昔ながらの喫茶店で、僕は煙草をふかしていた。 世の中が便利になる一方で、レトロ、という言葉がファッションのようになってきているせいか。 狭い店内はいっぱいになってきた。平日の…
かすかな物音がして目が覚めた。 時計を見ると夜中の二時だ。 寝付きがよく、かようなことは滅多にないのだが、空気中をただならぬ気配が冴え冴えと横切っている。 横向きに寝ている後頭部でサカサカ、とうごめくのがわかったので、 梟なみの勢いで90度ま…
近くの沼にでかい亀がいるらしい、という噂をききつけ、 日曜の朝っぱらから寒さを我慢して見にきてしまった私。 爬虫類好きでもないくせにまったく何をしてるのかしら私、と毒づいたその時、 目の前がひらけて問題の沼が現れた。 うすい陽がさしているにも…
電信柱の陰からそのひげのおじさんが現れた時私の頭にうかんだのは、 知らない人についていかない。 という教室に貼ってある標語よりも何より、「ちびまる子ちゃん」のアニメの主題歌の詩だった。 アニメーションの中ではかなりひょうきんそうなビジュアルで…
今年はもう冬なんて来ないんじゃないかなんて、ついこの前まで話していたのに。 クラブ活動の生徒たちがグラウンドへ飛び出してきてから間もなく、 薄墨をはいたようにあたりは暗く沈んでしまった。 職員室の暖かさの中にいても、ふきすさぶ木枯らしを感じる…
こんな夢を見た。 自分のいる場所が、夢の中だとわかっている。 周囲にいた数人のうち一人、確かに知人なのだが起きてからはだれとも思い出せぬその人に、 これって夢だよね? と念を押すとそうだとこたえる。 自分は安心して、ならいつか覚めるだろうと思う…
ごそり、 という嫌な音が耳の奥でひびいた気がした。 見るともう、肩まで僕は、黒い水につかっている。 反射的に岸へ戻ろうとする。 慌てたのがいけなかったのか、 何かに足をとられ、たちまち体が沈んで、息ができなくなった。 ボコボコ、という音と息苦し…
毎日じめじめしていやあね、 などという同僚たちのつぶやきに反して、このところ僕の体はすこぶる調子がよかった。 原因は、どうやら頭のようだ。最近抜け毛が少ないし、なんとなくふさふさと決まっているのだ。 はたちを過ぎるころから薄毛が気になってい…
ふとしたきっかけで生まれるにじみや、筆を落としたときに混ざる透明な色に魅せられて、 むむ子は水彩絵の具ばかりつかうようになった。 おかげで図工の時間に絵の具をはじめて教わった際、先生からほめられる対象をとおりこして怒られてしまったほどだ。 …
水泳の補講を終えての帰り道。 ひどく長い時間をすごしたようなだるさをひきずりながら、なんとなく帰れずにいた。 自転車置き場にできた日かげに腰をおろした私とクロエの前を、 下級生の女の子が、蝉の抜け殻を数えながらゆっくりと横切ってゆく。 クロエ…
にしても、家のすぐ裏がこんなにも入り組んでいただなんて。 迷路に迷い込んだ心境で、ぼくは飼い猫の後を追った。 名前をリオーダという、もうすぐ一年になる猫はとてもやんちゃで、 その朝も、新聞を取ろうと玄関のドアを開けた瞬間を狙い、とびだしてしま…
人一倍、いいえ、猿一倍のバナナ好きを自負している、さるがいました。 ある夜、それはおいしそうなバナナが夜空に浮かんでいるのを見て、たいそう驚きました。 あまりにもおいしそうで、まるで光りかがやいているかのようです。 仲間や、とりやムシたちか…
お風呂から出て髪が自然乾燥するのを待つ間、 パソコンに向かうことにしている。 することは、メールチェックと、今はやりのソーシャルネットワークを開いてみるだけ。 どちらも特にさかんなやりとりや更新を行っているわけではないから、 ショートカットの…
きのう、薬局にいたよね。駅前の。 わりと仲良くしているクラスメイトに話しかけられ、朝一でぞっとしてしまった。 私は、きのう薬局付近に行った覚えはない。 どころか、本を読んだり絵を描いたり、飽きたらCDを聴いて歌ったりしながら、 貴重な日曜を一歩…
そんなことをするから、いざという時どこにやったかわからなくなるのよ。 彼女が咎めたのは、大事なメモ書きをティッシュの箱に控えている最中だった。 おさななじみではあるが久々に会ったのに、まるでわかったような口をきかれてついカチンとなり、 関係な…
わりと評判が良かったわりになんでもない長編だと感じたのだが、 ふとした拍子にそのワンシーンを思いだす。 思いだすのは、小説の筋においてあまり重要でないセリフのやりとりばかりだ。 これが名作とよばれる所以なのか。 なぜか、人に本を貸すのが好きな…
仕事が早くおわったのでちょっと一杯やろうと店へ入ると、たつ子さんがスコッチを飲んでいた。 お酒に氷と炭酸を入れるのが許し難い彼女はストレートだ。 あんなの飲めたらかっこいいよなあと思いつつ、モスコミュールを注文する。 こんな時間に珍しいねと言…
あー、起きたくない。寒い。 でももう起きんとやばい。時間割合わせてないからそろそろ起きんとあかん。 いやでもあと3分だけ寝たい。よし寝よ。 うわ、お母さん下から呼んでる。まだ寝てるってばれたら絶対起こしに来るから起きてるふりしよ。 もうすっき…
徒歩だとあまり遠出ができないので、隙をついて僕は自転車を持ち出した。 空気を入れたばかりらしく、ぼろい見かけの割りになかなかのスピードだ。 あっという間に、目の前には見たこともないような街並みが広がっていた。 なんて素敵なんだろう。ここを「…
家人の目を盗み、僕はひとりで屋根に上ることに成功した。 いつも外に出す時は邪魔なロープをつけられるか、だっこして放してもらえないのだが、 あの手この手を使って、とうとうひとりで出られる日がやってきたのだ。 こんちわ、これからお出かけ? おもむ…
江戸時代を舞台にしたゲームソフトの中に、虫売り、なるものが出ていたのを思い出し、 僕は虫を採集することにした。 それぐらいお金にこまっていたのだ。 夕闇があたりを包む時分から夜更けの間、虫取り網と虫かごを装着して夜な夜な歩きまわっていたのだ…